しゅー太の奇譚回想記

興味の赴くままに、風のようにふらふらと

「日常の謎」の魅力に惹かれて

読書のジャンルには様々あるが、個人的な感覚として「ミステリ」は比較的読みやすいジャンルだと思う。

 

謎が提示され、解決のために登場人物が奔走し、謎を解明する。一定の流れがありそれを辿るように読むため、どういう動きをしているのかがわかるためという理由である。

勿論、登場人物が集めた情報を基に読者が結論を推測するというのも楽しみ方の一つであり、没頭する人も多いだろう。ただ、この読み方は少々疲れてしまうだろう。(解明の段階で新たな情報が提示されることも多々あるためそれまでの独自の推理が水泡に帰すこともある。)

答え合わせができるのも醍醐味ではあるが。

 

なんにせよ「これからどうなるんだ!?」と未知の展開に心的負担を抑えられるのがある種のメリットであると思う。

冒険譚など、先の展開にはらはらどきどきしながら読みたいもの数多くあるが、本を手に取った時の心境次第によっては、無感情に本を読みたい時などもあるだろう。そういった時に読む本として一つの選択肢として「ミステリ」をオススメする。

 

さて、そんなミステリの中でも「日常の謎」というジャンルを今回取り上げたい。

日常の謎」とは日常生活の中において、ある時ふと生じた疑問を取り上げ、その謎を解明するという形式をおる作品である。

取り扱う謎は、ほとんどが犯罪などではなく、すべてではないが例えば、「なんであの子はあのお店にいたのか」「教室から椅子が一つなくなったのはどうしてか」などのような『ほんとどの人が気にも留めないけれど、確かに不思議だ』といったような謎を取り上げる。

場合によっては犯罪も取り扱っている話もあるが、比較的ライトな話題であることが多いため、気軽に楽しめるのが魅力である。(その話の結論として重くなってしまうことはある。謎事態に重みがないものが多いという意味である。)

また、取り扱う謎が些細なものであるため、長編には向かず、基本短編集という形をとる。これも読みやすさに繋がってくる。

また、その気質から青春(学園)モノとの相性がよく、転じて(露骨かどうかはさておいて)恋愛要素を兼ね備える作品もある。また、時間が進むにつれ登場人物たちの心理を掘り下げることも多く、人間的な成長が描かれることがしばしばある。

このジャンルの有名な作品だと米澤穂信の「氷菓」などがあげられるだろう。

www.kadokawa.co.jp

上記の説明から察せるとは思うが、ターゲットとしてはティーンズ向け(つまり本自体はライトノベルだ)である。しかし、謎のギミックは本格ミステリにも引けを取らないものも多く、どの年代が読んでも十分楽しめるだろう。そもそも主人公が高校生くらいの年齢ではない場合もある。

 

では、日常の謎の魅力とは何か。それは親近感・再現性である。

ミステリでは「殺人」がよくでてくるが、果たしてどの程度の読者が実際に体験または遭遇したことがあるだろうか。結果としてそれは「読者のこれまでの経験から想像された事件」であり、登場人物たちの行動原理に対する介入も「そういう状況なら多分こうなんだろうな」と考えられたものになってしまう。

 

一方、日常の謎ではその性質上、取り扱うものが「身近にあるもの」であることが多い(例にも挙げた教室の椅子や他にもその人物の境遇など)。普段から慣れ親しんだものが話題の中心に持ち上げられていると言える。また、先にも記述したが、高校生くらいの人物たちが登場人物であることが多く、その心理を描かれるものが多い。そして読者にターゲティングされているのがティーンズである以上、その読者は思春期を経験中か経験済みである人間がほとんどであろう。そのような作品と読者の関係がある故に、登場人物たちを取り巻く環境から生じる心の痛みや考え方の変化といったものに対して、自分の内側にもある何かを感じ取ることができるだろう。

 

つまり、多感な思春期を理解しているため、ほとんどの読者は作中の人物に感情移入しやすく、その幼稚さやある種の経験を通して発展した心の成長といったものに理解をしやすい(と私は思う)のである。

 

自分の外側にあるもの・自分の内側にあるもの、両者が掛け合わさることでより強い親近感を作品から感じ取るだけでなく、「確かに高校生くらいの年だとこんな感じだよな(だったな)」といった当時を振り返る再現性が手に入る。

 

これは言い換えるなら「身内ノリ」に近い面白さであると表現できる。

「身内ノリ」とは、大雑把な表現をしてしまえば「普段から親しみ過ぎていない自分(達)が知っている事柄を再確認する」行為であるが、これを万人が共通して得られるのが「日常の謎」の恐ろしいところであり、素晴らしいところだと思う。

 

さて、本来はこのジャンルについての説明として少々触れて、その後ある作品をレビューしたかったのがここまで長くなってしまった。長々と記述してしまったが、それだけ魅力を持つジャンルであると理解いただければ幸いだ。

 

手に取る方が増えることを願いながら、今回は筆を置く。